百の五
何もかも失くした日

里蔵 光

君が傍に居れば

其丈で僕は倖せだった

君を何時も遠くから見詰めて居た

あの頃が懐かしい

 

今も時々夢に見るけど

其の度君の顔はぼやけて行く

君の顔を忘れて仕舞うのが怖い

あの頃に帰りたい

 

告白なんて

しなければ良かった

愛してるなんて

言わなければ良かった

そうすれば今でも

胸ときめかす日々が

続いて居たかも知れないのに

 

君を見詰めて居たい

  あの頃の事は総て忘れて

  僕の所へおいでよ

初対面の二人の様に

真新しい気分で

もう一度会おう

 

…………

  真逆、

  君に恋人が居たなんて

  僕を踊らせておいて、恋人を作って居たなんて!

信じる者は救われたりしない

こんなに愛して居ても

報われる事は莫い

 

 

君の顔も君の声も君の仕草も

もう思い出せない

涙が零れても

思い出が溢れても

もう記憶の彼方に飛び去って

何も見当たらない

 

  もう一度会えるかい

  僕を忘れて仕舞ったの

最早何もかも

失くした

 

君を忘れ去り

一人で生きて行こう

誰にも頼らずに

独りで暮らして行こう

愛も何も見えなくて

頼れるものは何も無い

  もう、君も忘れたよ

青春の日々がずっと遠ざかる

 

――なにも、ないさ

(つゞく)